石狩湾耳鼻科

秋の花粉症 - 蓬(よもぎ)


 子供のころ、年末に餅つきをするのが年中行事の一つでした。「草もち」として母親が中にあんこをいれたヨモギもちを作っていました。私自信は「豆もち」の方が好きだったのですが、「ヨモギは体にいいんだから」と草もちを半ば強制的に食べさせられていました。

全国の花粉飛散図をながめていて、はたと気づきました。ヨモギの花粉飛散が北海道と佐渡ヶ島に極端に多いのです。私の母親は佐渡ヶ島の出身であり、きっと生まれた時からヨモギは身近なものだったのに違いありません。

花粉症といえば、春から夏のものだと思っている方が多いかもしれませんが、実は秋にも花粉症があります。それがヨモギの花粉症です。ヨモギはキク科の雑草です。キク科の植物は本来、黄色の花をもった虫媒花の植物なのですが、ヨモギはこのキク科の植物が虫のいない乾燥した地域に適応するため風媒花の植物に変化して生き延びたものだとされています。風媒花の雑草ですからたくさんの花粉を飛ばします。昨年、ここ石狩の医院で観測したところヨモギの花粉は予想以上にたくさん飛んでおりました。北大医学部屋上で飛ぶ花粉のなんと20倍ほどの花粉がここでは飛散しておりました。札幌の中心部では地面の多くがアスファルトで覆われてしまいもうヨモギが生育できる場所が少なくなっているためと思われます。 

10年以上前、実験に使うヨモギの花粉を採集するために郊外に車を走らせました。豊平川の川べり、あいの里の近辺、当別・・・、札幌の街の中心を外れれば、ヨモギはどこでもたくさん生育しておりました。

ヨモギの花粉は8月中旬、お盆過ぎから少しづつ飛び始め、9月の第1週くらいが飛散のピーク、9月の中旬くらいには飛散は終了します。ですから毎年この時期にくしゃみ、はなみず、はなづまりなどの症状のある方はヨモギ花粉症を考えたほうがよいと思います。

ヨモギ以外での秋の花粉症の原因としては、黄色の花を野原一面に咲かせるセイタカアワダチソウ、オオアワダチソウなどもありますが、これらの雑草は虫媒花であるため、花粉はあまり多くとびません。また本州では秋の花粉症の代表であるブタクサは幸いなことに札幌、石狩地区ではその植生がなく、花粉症の原因にはなりません。

ヨモギの花粉症患者さんからよく聞かれます。「ヨモギ花粉症ですが、ヨモギもちを食べて大丈夫でしょうか?」北大耳鼻科のアレルギー外来で診療していたころ、この件が気になって調査したことがあります。結果は、ヨモギもちでアレルギー症状を起こす患者さんを見つけることはできませんでした。花粉の中のアレルギーを起こす蛋白は葉には含まれていないものと思われます。

母親の家に帰ると、今でも時々、つきたての草もちが用意されており、「体にいいから」と持たされます。年をとったせいでしょうか、子供のころはあまり好きでなかった草もちが以前より好きになっている自分を発見しております。

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