インフルエンザと新型コロナウイルスに関する考察 

(2020/5/4, maguchi@iwan.jp )

★今冬の当院のインフルエンザ

 最近は隔年にインフルエンザBが流行しているので、今年の1月、2月はB型インフルエンザの患者さんがたくさん受診するものと予想していたのですが、予想は全く外れました。

下のグラフは当院の2019年の年末から今年3月にかけてのインフルエンザ迅速検査の結果です。

 年末の12月にはA型インフルエンザが流行していましたが、年が明けてからは収束傾向になりました。

★新型コロナウイルスについて

 228日に当地の北海道では知事が新型コロナウイルスの流行に対して緊急事態宣言をだしました。最近、医療関係者のネット(M3)の中で、今年の1月、2月はインフルエンザ様の症状にもかかわらずインフルエンザ迅速検査では陰性の患者が多かったという書込がいくつか認められました。わたし個人としてはそういう印象は希薄ですが、それが本当かどうか調べてみたいと思いました。当院は開院以来、インフルエンザ迅速検査の結果を集計してグラフにし、毎冬、1週間おきに直近の検査結果を院内に掲示していますので過去のデータが残っています。

 目的:今年の1月、2月のインフルエンザ迅速検査で陰性例が例年より多かったかどうかを検討

 方法:当院の2011年から2020年までの10年間の1/1から3/4までの9週間のインフルエンザ迅速検査の検査数、A型陽性数、B型陽性数のデータを解析する

 結果:生のデータを表にして表示し、グラフを提示します。

 20112020の1/1から3/4までの9週間のインフルエンザ迅速検査結果

検査数

A

B

陽性率

2011

181

75

3

43.1%

2012

510

209

61

52.9%

2013

296

127

0

42.9%

2014

522

167

105

52.1%

2015

316

156

2

50.0%

2016

652

203

127

50.6%

2017

365

174

10

50.4%

2018

854

158

240

46.6%

2019

483

213

1

44.3%

2020

258

42

33

29.1%

 B型インフルエンザはほぼ1年おきに流行しており、B型インフルエンザの流行する年は全体の検査数も多くなっております。なお新型インフルエンザの流行したのは2009年秋です。

インフルエンザ迅速検査のA,Bあわせての陽性率です。

2020年以外は40%以上なのに、今年の2020年は29.1%でした。断定はできませんが、やはりこの時期に新型コロナウイルス患者がインフルエンザ様症状を呈してすでに受診していたという仮説を立てることが可能のように思われます。

ここからは希望的観測です。もし本当に今年の1月、2月にインフルエンザ様症状で受診した患者の中に新型コロナウイルスに罹患している患者が存在していたなら、インフルエンザ検査を頻回に行っている耳鼻科の開業医においてはすでにこのウイルスを十分すぎるくらいに浴びているかもしれません。そしてそのほとんどが無症状、あるいは軽症で済んでいる可能性が考えられます。この時期に耳鼻科の医院に勤めている職員も同じようにウイルスを浴びているかもしれません。

現在新型コロナウイルスの抗体価測定が実施され始めています。本日のネットでスイスロシュ社から100%に近い精度の抗体検査薬がでて、日本でも5月中に承認申請の予定とのことです。上に述べた仮説を検証するには日常診療でインフルエンザ検査をルーチンとして施行している耳鼻科開業医が新型コロナウイルスの抗体を有意に高い値で保持しているかどうかの調査をすればよいと思います。ロシュ社の検査がもし可能になるのなら、私を含め、当院の職員の採血をして抗体価を測定したいと思っています。

ここからは希望的観測を超えて夢です。耳鼻科の開業医はすでに新型コロナウイルスに罹患して抗体も持っている。職員だってもっている。であるなら、発熱、咳などの患者も躊躇することなく、いままでのインフルエンザ疑いの患者と同じように診療することが可能になると思います。年末までに迅速検査が普及して、アビガンも開業医で容易に処方できるようになれば、コロナ疑いwelcomeと言えるかもしれません。今は経営難の耳鼻科開業医の福音になるのでないかと考えている次第です。2020/5/4 ishikariwan ENT clinic, S.Maguchi)


★単純な計算ミスを2カ所でやってしまっていました。2013年陽性率は52.1%→42.9%、2019年陽性率は43.3%→44.3%に訂正しました。これに伴い陽性率のグラフも訂正し、入れ替えました。このページをuploadした夜、首相の会見、質疑でアビガンの5月中の認可予定が発表されました。日本の抗原迅速検査キット開発も最終段階にあることがわかりました。夢のための外堀は埋められてきていると感じています。    (2020/5/5)



★追記  2020年1月、2月の陽性率が低いことに対して、中国の春節の前後で陽性率に違いは出ていないのかという質問が寄せられました。すなわち中国から北海道へ多数の中国人が来訪した1月下旬の以前では陽性率は高かったが、中国人来訪後の2月以降は陽性率が下がっているというデータが得られるのではないかという趣旨です。
 当院のデータは1週間ごとにまとめられている数値のため、5週間ごとのデータを集計して表を提示、陽性率推移のグラフを示しました。

2019-2020インフルエンザ迅速検査キット陽性率

検査数 A,B陽性数 陽性率
10/23-11/26 147 42 28.6%
11/27-12/31 471 204 43.3%
1/1-2/4 140 49 35.0%
2/5/-3/11 129 28 21.7%



結果です。1月の段階ですでに陽性率は例年より下がっており、2月はさらに大きく陽性率の低下が認められました。
(2020/5/7木)